イギリスの新外相にキャメロン元首相が就任

2023年11月半ば、スナーク英首相はキャメロン元首相を新外相に任命した。

 

キャメロン外相は2010年から2016年まで首相を務めた。

が、イギリスが国民投票でヨーロッパ連合(EU)からの離脱を決めると、首相を辞任して政界から遠ざかっていた。

 

▽ロンドン

ロンドン



経緯

同日、ブラバマン氏が内相を解任された。

それに伴い、クレバリー氏が外相から内相に転任し、空いた外相のポストにキャメロン氏が収まった形だ。

 

スナク英首相、内相を解任 外相にはキャメロン元首相を起用 - CNN.co.jp

 

ブラバマン氏は8日の英タイムズ紙上で、ガザ危機に関連して、ロンドンの警察が右翼の取り締まりを厳しく行う一方、親パレスチナの暴徒は見過ごしていると発言し、物議を醸していた。

 

なお、11日にはロンドンで30万人規模の親パレスチナ・デモが実施され、デモに抗議した右翼145名が逮捕されている。

 

スーナク英首相、内相への信頼変わらず 親パレスチナ・デモ対応で警察批判めぐり - BBCニュース

ロンドンのガザ停戦要求デモ、憎悪犯罪などで7人起訴 逮捕は145人 - BBCニュース

 

キャメロン外相

実は、キャメロン氏はイギリスのEU離脱に反対だった。

彼は有権者が離脱を支持しないと信じて国民投票に臨んだのだが、結果は私たちの知る通りだ。

 

スナーク首相は当時無名の政治家だったが、EU離脱には賛成で、党首のキャメロン氏には敵対する立場だった。

 

以上の因縁にも関わらず、キャメロン外相はチームの一員としてスナーク首相を支えることに熱意を見せている。

 

▽Youtube, posted by BBC

 

一代貴族

先述の通り、キャメロン氏はイギリスがEU離脱を決めると、首相を辞任して政界から遠ざかっていた。

元首相が党内にいると後任が動きにくいだろうという、彼の配慮からだった。

 

今回、キャメロン氏が政界に復帰するに際して、彼は選挙で選出される下院議員ではなく、上院(貴族院)議員として、議席を与えられた。

そのため、キャメロン氏は一代貴族として爵位を授与されている。

 

一代貴族とは、かつて創設された非世襲の爵位(男爵)だ。

つまり、彼は今やキャメロン卿なのだ。

 

実際、BBCを英語で見ると'Lord Cameron'と表記されている。

 

キャメロン英外相「一代貴族」として上院議員に就任…首相経験者では92年のサッチャー氏以来 : 読売新聞

 

ブラバマン氏

先述の通り、ブラバマン氏は今回内相を解任された。

とは言え、私たちは彼女の名を直ちに忘れるわけにはいかない。

 

BBCは次のような可能性に言及する。

つまり、以前より争点となっている、不法移民のルワンダ移送問題を巡って、強力な推進者であるブラバマン氏を中心に保守党が分裂する。

そして、場合によっては彼女が党首に就くこともあるだろう、と(実際にはそこまで明言はしないが)。

 

【解説】 キャメロン元首相の政界復帰、いったい何が起きているのか - BBCニュース

 

ルワンダ移送計画

イギリスは英仏海峡を渡る不法移民の問題を抱えている。

そのルワンダ移送計画とは、彼らをルワンダとの合意の下、同国へ移送し当地で亡命申請させようとするものだ。

 

計画は2022年、当時のジョンソン政権下で一度実行に移された。

が、航空機による亡命申請者の移送は、直前で中止された。欧州人権裁判所からのストップがかかったからだ。

 

スナーク首相は同じ計画の実施を目指しているが、キャメロン氏が外相となって間もなくして、計画は最高裁の違法判決を受けてしまった。

 

英仏海峡を渡ってきた難民をルワンダへ移送 英政府案に賛否両論 - BBCニュース

英政府の不法入国者のルワンダ移送、直前で停止 欧州人権裁判所の判断受け - BBCニュース

 

判決

しかし、判決は計画を最終的に頓挫させたわけではない。

 

というのも、判決によれば問題は「移送」という手段なのではない。

そうではなく、問題は亡命申請者がルワンダという国で受けるであろう人権上の危険性なのだ。

 

すると、ルワンダとの合意内容次第では、問題は解決されるかもしれない。

少なくとも、スナーク首相はそう考えている。

 

英最高裁、不法入国者のルワンダ移送は「違法」 「堂々めぐりやめるべき」と首相 - BBCニュース

 

欧州人権条約

スナーク首相が最高裁の判決を片づけられたとして、まだ懸念はある。

2022年のように、欧州人権裁判所がノーと言えば、イギリスはおそらく従わざるを得ないだろう。

 

そこで浮上するのが、欧州人権条約からの脱退だ。

実は、先ほどのブラバマン氏復権の道筋は、この辺りと関係している。

 

スナーク首相の持ち札には、ジョーカーだけが残されているのではない。

が、彼は次のように発言している。

 

私は、外国の裁判所が(不法入国者を乗せた)フライトを阻止することを認めない。ストラスブールの裁判所が(英)議会の意向に反して介入することを選択した場合、私には飛行機を離陸させるために必要なことをする用意がある。

 

スナーク首相がここまで言っている以上、ブラバマン氏が彼に代わって台頭するかどうかは分からない。

とは言え、次の保守党幹部の懸念ももっともだ。

 

(欧州人権条約を巡る問題は)これはブレグジット2.0のようなものになる。

 

英米艦隊

2023年10月にガザ危機が始まると、英米は素早く地中海へ艦隊を派遣した。

 

目的はもちろん、イスラエルの支援とハマスの抑止だ。

しかし、イスラエル周辺の武装組織が一斉に動き出す危険性が指摘されていたことを考慮すれば、この措置は更に先を意識したものでもあったと解釈しても、おそらく誤りではない。

 

英、地中海へ戦闘艦船と偵察機派遣 イスラエル支援で - CNN.co.jp

 

国際法

ここで、国際法が決して万能ではないことを指摘しておく。

その理由はいくつかあるが、国際法は国家の行動の全ての場面、全ての領域を規制しているわけではないし、国際法自体が変化の可能性を持っているからだ。

 

ルワンダ移送計画にせよ、英米艦隊の派遣にせよ、私たちの肌には合わないと感じるかもしれない。

ただ一つ言えるのは、彼らは未知の世界を歩いているということだ。

 

それも、必ずしも「万能の指針」を持たずに。

 

未知の世界

国際社会という未知の旅路を安全にする万能のお守りは存在しない。

一方、日本は数年来、対中、対ロ包囲網の構築、バラマキ的経済政策(可能な場合でも財政を休ませない)という線だけをなぞっている。

 

私たちは現在を「未知の世界」とは言うが、その合理的理解を急ぐばかりだ。

 

が、最も大切なことは理解を急がず、他人の理解に飛び付かず(それは大体、ただの図式主義に堕する)、未知を未知として見つめることではないか。

 

未知を静かに見つめる経験からしか、「ヴィジョン」は生まれ得ない。